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「書を捨てず、町へ出るな」(久湊)

3/29/2020

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​実家の母から突然のLINEです。


​
「ちょいとお願いです
シャープがマスクを生産しているという発表が24日にありました。まずは政府に納入後、一般にむけても今月末頃にWEB販売するとのことでした。それに備えて先日早速シャープ会員登録を行ったところです。
[SHARP COCORO LIFE]いうサイトです。ところが、今のところカード決済のみの取り扱いということが分かり意気消沈。諦めかけたけど、あなたに購入を頼んでみようかと….。とは言え、一人が何箱まで購入できるかは未定なので、もし一人一箱だったらあなた用にして、一箱以上購入可能だったら送ってくれると助かるのですが。
販売開始は明日か、明後日ということになります。値段は未定です。恐らく、あっという間に完売してしまうと思うので、お願いできるなら販売開始し次第、ラインで連絡します。もちろんあなた仕事中で手が離せないことは多分にあると思うのでその場合は致し方ないと思います。どうでしょう。無茶でしょうか(原文ママ)」


2度読み返して、こう返しました。

​
「無茶です(原文ママ)」
  
 
母からの連絡は大抵こういった依頼ごとなので内容自体は特筆することもなく、まぁ強いて言えばキャッシュレス全盛のこの時代にクレジットカードの登録方法もわからないのかと嘆息する程度なのですが、ちょうどふた月くらい前の連絡では「ペイペイの登録方法を教えて」とまるでSiriにでも頼むかのように言われたので今回は自分で情報を収集できたことに喜びを見出すべきなのかもしれません。母よ、息子はあなたの成長が嬉しいです。
 
 


 
ともあれさすが天下のシャープ様(ステマではない)、SDGsに則り大衆に向けて即物的な貢献をされる、しかもその宣伝が行き渡っていることの素晴らしさ、その質実剛健なブランディング力(繰り返すがステマではない)に惹かれてちょっと見るだけ見てみようかな、と思い先のサイトにアクセスしてみました。
 

​
 
 
すると、サイト下部にTwitterの埋め込みバーが。トップには誰かのリツイートが表示されていました。

書を捨てず、町へ出るな

— SHARP シャープ株式会社 (@SHARP_JP) March 27, 2020



いうまでもなく寺山修司「書を捨てよ町へ出よう」のオマージュです(よね?)。
 
 
 


ハッシュタグ化されているので皆さんの目にも留まっているかもしれませんが、いやなんとも、うまいこと言ったものです。まさに目のつけどころがシャープ(最近聞かない)。全国的な自主的自宅軟禁ムードにうまく光をあて、かつ巨大企業に求められるノーブルオブリゲーションめいたものも果たす名文。でもなぜだかRT、いいね共にそこまで伸びていない。なんでだろう。こういうところがTwitterの難しいところなんだろうか。
 


 
 
とにかく面白そうだったのでパラパラみてたんですが、界隈ではこのハッシュタグがこの外出自粛期間に読むべきおすすめの本紹介のpostに付されるようになっており、結構な数使われているようでした。とりあえず僕もこれ書いたら流れに乗ってみようかなって思います。
 
 


 
ところで。
 
 
 


僕てっきり「書を捨てよ町へ出よう」は寺山の言だと思っていたんですが、調べてみるとどうやら違うようでした。
 
 


 
寺山修司は言わずと知れた劇作家ですが、彼の主宰した劇団「天井桟敷」は60年代のアングラ演劇ブームの火付け役でした。『毛皮のマリー』『身毒丸』なんかで有名ですね。『身毒丸』は95年に蜷川幸雄演出・藤原竜也主演で、『毛皮のマリー』は昨年2019年に美輪明宏主演で上演されるなど、今でも語り継がれカルト的な人気を誇る戯曲を数多く生み出しました。毛皮のマリー、チケット外れたんだよな……。
 
 
 


(ちなみに僕はあんまり詳しくないんですが、寺山作品を全作品上演することを目標に掲げている【池の下】さんという団体の演出が結構好きです。寺山好きの方はぜひ!)
 
 


 
その「天井桟敷」の数ある作品の中でも出世作と言われているのが『ハイティーン詩 書を捨てよ町へ出よう』です。上演の前年に刊行された寺山本人による評論集「書を捨てよ町へ出よう」がタイトルとして選ばれました。
 
 


 
僕は映画版しか見てませんが、
「映画館の暗闇でそうやって腰掛けていたって何も始まらないよ…」
という猛烈なメタ発言から始まる暗くてじめっとした物語軸、憤懣やる方ない青春を過ごす主人公の鬱屈した存在感、過激なミュージカル演出と、胃もたれするような要素がこれでもかと詰まっていたように感じました。
高カロリー高タンパク。
 
 


 
とまあ、冗長に書いてしまいそうになったので閑話休題、
込み入った寺山修司論的なものは詳しい方に任せるとして、問題はタイトルの出典でしたね。
 
 


 
寺山自身は早稲田大学在学時に病気をしたようで、長い入院生活、療養期間の中で大量の本を読んだとされています。そりゃ読むでしょうが、量が尋常ではなかったのでしょう。復帰後その時の経験から評論集「書を捨てよ町へ出よう」を出版、そのタイトルについて巻末にて触れています。これによると、厖大な読書の中で見つけたアンドレ・ジッドの『地の糧』という紀行詩集に、「書を捨てよ、町へ出よう」という言葉が出てくるとのことなのです。
 
 


 
このタイトル、受け取り方は人それぞれですが、おおかた、

「本を読むのはそれくらいにして、外に出ていろいろな体験をしようぜ!」
​
という反読書論的・体験至上主義的なスタンスを想像すると思います。まるで「この本を読むなよ!」とでも言わんばかりの表題におかしみを感じて多くの人がこの本を手に取ったはず。にもかかわらずそのタイトルそのものがマニアックな本の引用というのはこれいかに。
 
 


 
ともすれば逆にものすごく寺山的であると言えるようなこの斜に構えた命名に、寺山自身は何か説明を付しているわけではありません。しかし寺山は、それにジッドは、どうやら生涯を通して大変な読書家であったらしいということがあちらこちらで見受けられます。
 
 


 
一方で、知識への執着から抜け出し、生の実感を得るべく体験を求めるという筋書きには、
​他にも思い当たるところがあります。
 
 


 
18世紀ドイツの文豪ゲーテの戯曲『ファウスト』。その主人公であるファウスト博士は、当時ヨーロッパで主柱とされた哲学・神学・法学・医学そのどれもに精通していた大天才でした。しかし博士は猛烈な知識の探究・研究の果てに、ほんとうに知りたいことは学問ではわからないということに気づき絶望します。彼は誘惑の悪魔メフィストフェレスを召喚し自らを青年へと若返らせ、全く違う生き方を求めるようになる。「モノ消費」よりも「コト消費」がありがたがられる昨今、ファウストの選択は我々に少なからず示唆を与えてくれるように思います。
 
 
 


ゲーテやジッド、寺山の言は「書を捨てる」事に重きを置いていない。むしろ「捨てる」ためには多くを読み、知らなければならない。単に「捨てる」という言葉の鋭利さを利用した秀逸な皮肉だったのではないでしょうか。
 


 
 
さて、シャープさんの言う通り、今は町へ出るべきではありません。もちろん「町」はドアの外にだけ広がっているわけではありませんが、この機会に「書」を読む事に徹するのも悪くないかもしれませんね。
コロナ禍に僕たちができることもほとんどありませんが、
よろしければ、我々の雑誌もぜひお供させていただければと思います。
(持ってない方、下のコメントフォーム等からご連絡いただければ郵送等でご対応できるかもしれません!)
 
 

​
 
余談ですが、なんとシャープ株式会社公式アカウントの中の人こと山本隆博さん、
​

あすの文学フリマ東京で頒布される、浅生鴨さんによる同人本 #異人と同人 に図々しく参加させてもらいました。恐る恐る書いた、小説と呼べるものかどうかよくわからない読み物です。 https://t.co/TGiHqZiXt9

— SHARP シャープ株式会社 (@SHARP_JP) November 23, 2019


​文フリ参戦してた。
 




Amazon在庫もあるようなので、気になった方は調べてみてくださいね!

 


 
5月文フリは開催中止となりましたが、11月(もしくはもっと早く?)はより一層盛り上がりそうですね。
​我々習作派も精一杯頑張りますよ!
 
 
 
 
それでは、僕はSHARP COCORO LIFEの登録作業があるのでこの辺で。
 
 
 
おやすみなさい。



(参考:​http://lib.soka.ac.jp/Library/SEASON/no9/sno9_1.htm)

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