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習作派について

戯曲
 
サークル名決定にあたっては、そこそこ時間と労力がつぎ込まれました。
僕たち、中学・高校の同級生なのですが、26歳に至る今まで、ありがたいことに、仲良くさせてもらっています。
片や適当なことばかり言っていて、もう片方はにこにこしている、そんな関係性で、これまでやってきました。
 
だから、「一緒に同人誌をやろう」と声がかかった時にも、二つ返事で快諾しました。
 
・・・まさか、こんなことになるとは知らずに。

以下、二人、電話でのやり取り。
舞台、向かって右側に石田、左側に久湊。
両者の間には、約300kmの隔たりがある。
8月末の晩、深夜1時過ぎ。

石田 「だから、“派”はつけたいんだよね」

久湊 「・・・」

石田 「たとえば森鴎外は、しばしば『高踏派』と呼ばれていたんだけど、これは当時の主流だった自然主義文学が日常生活や感情の《ありのままを描く》ことを掲げていたのに対して、格調高い文体で古典に題材をとった作品を発表していたことに由来してるんだよね。逆に夏目漱石なんかは『低徊派』とか『余裕派』とも言われたんだけど、これは漱石らしい造語力を反映してというか」

久湊 「・・・」

石田 「久湊?」

久湊 「あ、うん、いや、聞いてるよ」

石田 「そう。ああ、だから“派”は是非入れたいんだよ」

久湊 「・・・」

石田 「・・・どうしたの?」

久湊 「いや・・・、お前、今日、すげぇ喋るなって」

石田 「そう?」

久湊 「そうだよ。え?むしろ自覚なかったの?」

石田 「全く」

久湊 「今までそんな捲し立てたことなかったじゃん。あれ、なかったよね?ていうか、石田だよね?僕の知ってる石田くんだよね?」

石田 「はい、石田です」

久湊 「あ、よかった」

石田 「うん」

久湊 「・・・」

石田 「・・・」

久湊 「で、何の話だっけ」

石田 「文学フリマに参加する際の、サークルの名称の話」

久湊 「ああ、はいはい、そういえばそんな話だった」

石田 「久湊はなんか要望ある?」

久湊 「いやぁ、何でもいいかなぁ」

石田、立ち上がる。
電話を耳に当てたまま、部屋をぐるぐるとゆっくり回る。
モノトーンで統一された、隙のない部屋。
右手に持ったペンを器用に回している。

石田 「あんまり小難しいのは嫌だよね」

久湊 「今さっき小難しい話してたけどね」

石田 「シンプルな方がいいと思うんだ、覚えてもらうためにも」

久湊 「そうかもね」

石田 「かといって、シンプルすぎてもパンチがないし、面白くない」

久湊 「うん」

石田 「そこで、“派”を入れたらどうだろうと思ったんだけど」

久湊 「そうなんだ」

石田 「どう思う?」

久湊 「いいんじゃない?」

石田 「久湊、今何やってるの?」

久湊 「りんご剥いてる」

久湊、イヤホンで電話をしながらキッチンに立っている。
裸になったりんごを、8等分のくし切りに。
皿に盛り、リビングに戻りながら一つを口の中へ。
しゃり、と小気味のいい音。

石田 「おいしい?」

久湊 「うーん、まだ早いね」

石田 「そうか、残念」

しばらく、りんごを咀嚼する音だけが続く。
石田、立ち止まり黙って聞いている。
指先のペンは、回転が速くなっている。
間。

久湊 「そういえばさ」

石田 「ん?」

石田のペンの動きが止まる。
久湊、依然として咀嚼。
3つ目のりんごを嚥下し、話し始める。

久湊 「どうして、今回やろうと思ったの?」

石田 「何を?」

久湊 「いや、同人誌を」

石田 「・・・」

石田、その場でゆっくりと座り込む。

久湊 「あれ、そんな難しいこと聞いた?」

石田 「いや、そういうわけじゃないんだけど、けど・・・」

久湊 「けど?」

石田 「・・・うーん」

間。

石田 「・・・読んでほしいからかな」

久湊 「うん」

石田 「やっぱり、読まれてこその小説だと思うし」

久湊 「そうだね」

石田 「今まで何作か書いてきたけど、赤の他人に読まれた経験はないから、純粋に、読んでほしい」

久湊、煙草を手に取る。
火をつけ、ひと吸い。

久湊 「じゃあ、どうして同人誌なの?」

石田 「え?」

久湊 「ただ読んでもらうためだったら、ブログにでも記事上げとけば済む話だよね。それを、わざわざフリマに参加して、雑誌を作って、販売するっていう方法をとろうと思ったのはなんで?」

石田 「・・・あー、そう聞かれると」

再び間。
しかし、今度は短い。

石田 「いや、うん、書き続けるためだよ」

久湊 「書き続ける?」

石田 「そう。フリマっていう機会を使って、少しでも多くの人に読んでもらう。これを繰り返していくことが重要なんだ。書き続けること、それが原点だよ」

久湊 「・・・なるほど」

石田 「1回や2回雑誌を刊行したくらいじゃダメだ。書いて書いて、書き続けることに意味がある。小説っていうのは自由なもので、そこに正解とか規範なんてない。いや、もし正解があるとすれば、それは読まれることにしかないと思うんだ。書き続けるかぎり自由で、読まれ続けるかぎり正しい。僕は小説の自由さに憧れているし、書くことで・・・」

久湊 「それを名前にすればいいんじゃない?」

石田 「それ、というと?」

久湊 「書き続けること」

石田 「それを、名前に?」

久湊 「例えば、・・・『習作』とか」

石田 「習作」

久湊 「そう。練習のために作る作品」

石田 「いや、それはちょっと危険じゃない?」

久湊 「え、なんで?」

石田 「それは即ち、練習作を売るってことになるでしょ。つまり、なんというか、本気ではないというか」

久湊 「いやいや、だって、訳したら『エチュード』でしょ?ショパンとかハチャトゥリアンなんかエチュード曲いっぱいあるし、コンサートで弾く人だっていっぱいいるじゃん。練習曲だって立派な作品だよ。」

石田 「それは少し語弊がある。彼らは練習用に曲を作ったわけじゃなくて、ただ単に当時の文学的な標題曲の風潮に興味がなかっただけっていう説が優勢なんだ。だから決して習作を世に出そうと思っていたわけじゃないと思う」

久湊 「でも、結果としてそういうネーミングになってるわけでしょ?ていうか、僕だって別に手を抜いて書こうと思ってるわけじゃないよ。書いた文章は全て次の文章への糧になる、みたいな意味でさ」

石田 「それはわかるけど、パッと見たときに誤解を生む可能性があると思うんだよね」

久湊 「じゃあどういうのがいいと思うの?」

石田 「うーん・・・『本気派』とか?」

久湊 「だっさ」

石田 「いやあくまで例としてだけど」

久湊 「例にも限度があるでしょ。え、本気?本気で本気派?」

石田 「意外に悪くなくない?」

久湊 「悪いよ、絶対買わないわそんなサークルの雑誌」

石田 「誤解は生まないよ」

久湊 「生まないだろうね、誤解の余地なく頭悪そう」

石田 「そこまで言わなくても・・・」

やいのやいの、わいわいがやがや、けんけんがくがく、かくかくしかじか。
電話会議は踊る、されど進まず。
ふと、見やると。
皿の上のりんごは、その数を減らさないまま、すでに黄色くなっている。
ペンは回るのをやめ、机上に寝そべり。
灰皿は吸殻で埋め尽くされている。
時刻は午前3時。
日の出まで、あと少し。


——とまあ、そんな感じで『習作派』は生まれ、僕たちの仲は少しぎくしゃくしたのでした。

​  
習作派。
 
書き続けること、それが僕たちの原点です。

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